やにわに雨が降り出した。

時刻は26時45分。

雨が嫌いだった。
くせっ毛の髪は暴れだす。
暗い空、すれ違う人々、バスの湿気、曇った窓ガラス。
何もかもが嫌だった。

だけど、いまは違う。
気付かなかったけど、本当は傘が嫌いだった。
濡れるのは悪くない。
濡れないように気を使って、雨から逃げて、隠れて、そうして過ごすのが嫌だっただけだ。

濡れる覚悟さえあれば、雨は気持ちいい。

夜半に降りだす音は心地いいノイズ。
明日の青空を、膨らみはじめた紫陽花のつぼみを、アマガエルの歓喜の声を夢想する。

たしか鏑木清方の随筆に、風を疎い、雨音を愛すひとの話があったように思う。
若い頃には何を馬鹿なと思ったものだが、いまにしてみればよくわかるのだ。

なんだ、年をとるのも悪くないじゃないか。