「父ちゃんの、職業は、なんさ?」
Kは答えなかった。妻も聞えないふりをきめこんだ。
「ねぇ、幼稚園で先生が聞くんだよう」
Kは、胃の重さと闘いながら、追いつめられたような気持になって、出まかせに頭にうかんだことを口にした。
「・・・・・・人間」
しかしむろん言葉にはならなかった。

安部公房 『盲腸』より