僕が知る
僕には僕の狂気がある
僕の狂気は蒼ざめて硬くなる
かの馬の静脈などを想はせる
僕にも僕の狂気がある
それは張子のやうに硬いがまた
張子のやうに破けはしない
それは不死身の弾力に充ち
それはひょつとしたなら乾鮑(ほしあわび)であるかもしれない
それを小刀で削つて薄つぺらにして
さて口に入れたつて唾液に反撥するかも知れない
唾液には混ざらぬものを
恰かも唾液に混ざるやうな格好をしてぐつと嚥み込まなければならないのかもしれない
ぐつと嚥み込んで、扨(さて)それがどんな不協和音を奏でるかは、僕が知る
中原中也




